心不全とは
心不全とは「心臓の働きが不十分となって体に異常が起き、だんだん悪くなって生命を縮める病気」のことを指し、動悸や息切れ、むくみが生じやすくなります。病態は心臓のポンプ機能の低下ですが、その原因として心筋梗塞や心臓弁膜症などのあらゆる心臓病はもちろん長年高血圧で心臓に負担が掛かったりすると、心不全になってしまいます。
近年心不全の患者が急激なスピードで増加しています(心不全パンデミック)。我が国では毎年一万人も増えており、2030年には患者数が130万人に上るだろうと言われています。
日本で心不全の患者が急増している理由は「高齢化」です。なぜ心不全が高齢化と関係するのかといえば心不全が「心臓が長年働き続けた結果、悪くなってしまった状態」だからです。
心不全の怖いところは、一度発症すると「完治することがない」ということです。衰えてしまったポンプは何とか修復することが出来ても、新品の状態に戻すことはできません。そのため心不全を一度発症(後述の図のステージC)すると、入退院を繰り返したり、少しずつ症状が悪化したりして、やがて死を迎えることになります。
心不全が完治しないのは心不全が「あらゆる心臓病の終末」だからです。心不全を完璧に予防しようと思えば、心筋梗塞や心筋症などの元凶となる病気を一つ残らず解決しなければなりません。さらに高齢になると当然心臓や血管は傷んできますからドミノ倒しのように次々と心臓や血管の病気が起こってきます。その結果心不全に至ります。
ただ「心不全にかかったら、もう助からない」と悲観する必要はありません。
現在心不全に対する治療は急激なスピードで進化しています。加えて心不全はがんと違い、対策をとることで進行を緩やかにすることが出来ます。
このように「あらゆる心臓病の終末」のため病態の理解が難しく、かつ一度発症すると進行性の経過をとる恐ろしい病気である心不全を理解するのに素晴らしい図があるので紹介します。
心不全は進行度により4つのステージに分けられます。まず、ステージAとは、高血圧、糖尿病など、心不全につながる危険因子を抱えている段階です。場合によっては動脈硬化が起こっていることもありますが、まだ心不全の症状は現れておらず、心臓の機能にも異常は見えられません。ステージBの段階では心臓の働きに異常が見られます。心肥大や心拍出量の低下などが現れ、心不全の原因となる心筋梗塞、弁膜症、心筋症、不整脈などが発症している場合もあります。このステージBを放置するとステージCへ移行して、ついに心不全が現れてしまいます。急性心不全を発症し、その症状がいったん落ち着くと、今度は慢性心不全へ移行します。そして慢性的に心臓に負荷がかかる状態が続き、息切れや動機、むくみなどが出現し始めます。良くなったり悪くなったりを繰り返しているうちに、心不全はどんどん治療が難しくなり、難治性になっていきます。心臓の機能はますます衰え、場合によっては補助人工心臓や心臓移植を考慮する段階となります。全身的な苦痛が生じる場合は緩和ケア(終末期ケア)へ移行してきます。これがステージD、いわゆる心不全の最終局面です。
この図から心不全の病態、経過をご理解いただき、①早期発見 ②生活習慣の見直し ③適切な受診 を心がけていただければ幸いです。
繰り返しますが、心不全の治療法は非常に進歩しています。投薬治療に用いられる薬剤も様々なタイプが開発されていますし、低侵襲の手術やデバイスの開発も目覚ましいものがあります。心不全のどのステージでも適切な治療や生活習慣の改善が出来れば進行を遅らせることが可能です。
最後に早期発見のきっかけになればとセルフチェックを提示しますので気になる点がある場合にはクリニックへご連絡ください。
心不全セルフチェック
シート
- ① 生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)にかかっている、喫煙をしている、または、過去に抗がん剤の投与や放射線治療を受けた。
- ② 心臓の病気(左室肥大・心筋梗塞・弁膜症・不整脈・心筋症・心不全)と言われた。
- ③ 血縁関係のある家族(両親・祖父母・兄弟・姉妹)に心臓の病気や突然死した方がいる。
- ④ 息切れ、胸痛、胸部不快感、動悸がある。
- ⑤ 靴をはくときなどかがみこんだり、お辞儀の姿勢をすると苦しくなる。
- ⑥ 夜間に咳が出たり、就寝中や横になった時に息苦しくなり起きると楽になる。
- ⑦ 夜間、おしっこに起きることが多い。
- ⑧ 1週間で合計2Kg以上の急激な体重増加がある。
- ⑨ 手足がむくむ。
- ⑩ 手足が冷たく、慢性的な疲れを感じる。意識を失ったことがある。